バイクのフロントサスペンションは
フロントフォークと言う呼び方をします。
(以後フロントフォーク)
正確にはテレスコピック式フォークと言います。
テレスコピックとは"望遠鏡"と言う意味です。
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自動車と比べると1つの車輪に
左右2つのサスペンションを備えているので
しっかりとした減衰力が有ります。
正立フォークと、倒立フォーク
そしてバイクのフロントフォークには
正立式と倒立式の2種類が有ります。
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バイクに詳しくない人は
どちらも同じ様に見えると思いますが
正立式と倒立式には大きな違いが有ります。
今回は正立式と倒立式の違いを
なるべく解り易く、そして深く掘り下げていきます。
正立式と倒立式の違いとは
では正立式と倒立式フォークの何が違うのかと言うと
その違いは"アウターチューブの位置"です。
▼ 正立式
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正立式フロントフォークは
オイルが入っているアウターチューブが下に有ります。
反対に倒立式フロントフォークは
アウターチューブが上に有ります。
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アウターチューブが下 = 正立フォーク
アウターチューブが上 = 倒立フォーク
図解 正立式と倒立式
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つまり正立フォークに比べて
倒立フォークは反対に逆立ちしている(倒立)
という事で倒立フォークと言います。
倒立式フォークの特徴とは
このアウターチューブの位置の違いによって
どんな違いが有るのかと言うと
倒立式の最大の強みは高剛性であるという事です。
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倒立式フォークはサスペンションの筒の部分である
太いアウターチューブが大きく
インナーチューブ(細いロッド)が小さいです。
太くて丈夫なアウターチューブが、ハンドルに固定されているので
捻じれ剛性も強く、絶対的な負荷強度も高いです。
また倒立式のもう一つの強みが“バネ下重量の軽量化”です。
倒立式は重いダンパー部が上に有る為に
バネ下重量が下がり走行性能が上がります。
バネ下重量とはサスペンションより下の部品、ホイールやキャリパー等の重量の事です。
そのバネ下重量を軽くすると
エンジンから出力されたパワーがホイールに伝わった時に
回転力の負荷が減る事になります。
解りやすく言うと5キロの靴を履いて走るのと
1キロの靴を履いて4キロの荷物を背負って走るのでは
人間全体の重量は同じでも
明らかに靴が軽い方が早く楽に走る事が出来ます。
また減衰力に関してもバネ下重量が軽い方が高性能です。
路面のギャップの突き上げの際に、バネ下重量が軽い方が慣性力が減って
サスペンションが受ける入力負荷が減り
反力も小さくなってダンパーの動作負荷が減って、サスペンションの動きが良くなり
タイヤの追随性が上がります。
(※過度なバネ下重量の軽量化は逆に足回りがバタつきます)
これは解りやすく言うと
ピンポン玉を地面に投げて返ってくる力と
野球ボールを地面に投げて返ってくる力では
重い野球ボールの方が遥かに受ける力が大きくなります。
サーキット走行などの、常にタイヤが路面に設置していなければならない様な、過酷な状況では追随性が高い倒立式の方が優れます。
そのためバネ下重量の軽量化は、車体の軽量化の10倍の効果があると言われています。
またそれ以外にも倒立式の方が、オイル容量を多く確保できます。
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またストローク(可動量)も確保しやすい事から
オフロード車には倒立式が積極的に採用されています。
ただ倒立式は全ての面で、正立式よりも優れている訳ではありません。
倒立式はアウターチューブが上に来るので
どうしても重心が高くなってしまいます。
重心が高くなると取り回しや旋回性に影響が出ます。
また倒立式フォークは、ロッドよりも太いアウターチューブが長いので
サスペンション自体も重くなってしまいます。
なので車両重量が増えてしまうので、重量増から来る加速性能や減速性能の低下、燃費も悪くなります。
バネ下重量が下がって運動性能は上がりますが、最終構成重量は上がってしまうので
絶対的走行性能に影響を受けます。
この重量に関する性能差は結果的に、打ち消し合っている面がありますが
圧倒的にメリットの方が大きいのは、言うまでもありません。
正立式フォークの特徴とは
正立式フォークはシンプルな構造で軽量です。
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重いアウターチューブが下に来るので
低重心になり取り回しや旋回性等が良くなります。
またバネ下重量が重いので、サスペンションの追随性が下がる分
路面からの入力を受けにくくなって、乗り心地が穏やかになります。
なのでクルーザーやツアラーバイクには
正立フォークの方が向いています。
正立式と倒立式、オイルシール重要度の違い
またその他に正立フォークと倒立フォークでは
オイルシールが劣化した時の危険性にも違いが有ります。
フロントフォークのオイルシールに関しては
倒立式の方が劣化のリスクが高くなります。
倒立フォークは重力で下に落ちてこようとする
フォークオイルをオイルシールでせき止めている構造です。
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倒立式は構造上オイルシールが劣化すると、フォークオイルが上から漏れてきます。
正立式はオイルが入ったアウターチューブが下に有るので
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オイルシールが劣化しても、下に溜まったオイルはサスペンションの運動時以外は、上に上がってこないので
すぐにオイルが漏れて垂れてくる事は有りません。
なので正立式フォークのオイルシールの重要度は
倒立式程シビアでは無いです。
正立式ではオイルシールが劣化しても
オイルの漏れは限定的でまず気づかない程です。
それが倒立式ではオイルシールが劣化すると
オイルがダラダラと漏れてきて危険で、すぐに修理を要します。
またそれ以外には
倒立式は上部にダストシールが有るので
跳ねた小石が当たりやすい側面も有ります。
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正立式フォークは
小石がダストシールに当たる事は有りません。
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事故の際にフレームも曲がる倒立式
またその他に万が一バイクが事故に遭った時に
バイクは事故の際殆どの場合、フロントタイヤが潰れてフォークに大きな力が加わります。
その場合、倒立式フォークのバイクは
フロントフォークの剛性が高すぎて
フレームまで曲がってしまう事が有ります。
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▼ 倒立式の事故想定図
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正立式フォークの場合は
上部のロッド部分が変形してダメージを吸収するので
フレームへのダメージは免れる事が有ります。
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▼ 正立式の事故想定図
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フロントフォークが変形した場合は
フォークを交換する事で安価に修理が出来ますが
フレームが変形した場合は修理は不可能ではありませんが
専用のフレーム矯正設備が有る整備工場で修理する必要が有り
修理代も高額になります。
正立式、倒立式 メンテナンス性の違い
また最後にもう1点、正立式と倒立式の大きな違いが有ります。
それはフロントフォークは一定の走行距離が経過した時や
錆びによるオイルシールの劣化、経年経過によるゴムの劣化等で
フロントフォークのアウターチューブ内のオイルを交換する必要が有ります。
つまり、四輪車のサスペンションと違い
バイクのフロントフォークは
廃車までノーメンテナンスのパーツではありません。
バイクは一般的に、フォークオイルを交換するのが普通です。
そしていざフロントフォークをばらして、オイル交換をしようとすると
正立式なら簡単にばらして組み込めますが
倒立式はまず素人ではできない行程が有ります。
それは倒立式の場合は分解後、組み込む際に
メタルやオイルシールをアウターチューブに圧入する時に
正立式は上から簡単に塩ビ管等で押し込めますが
倒立式はインナーチューブの先がオープンになっていないので
オイルシールを圧入するのが難しいです。
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ちなみにプロは倒立式の専用工具で圧入します。
代用工具を作れば安く出来ます。
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▼ 倒立式フォークオーバーホールの記事はこちら
そういった事も有ってか
主なスクーター、カブ、CB400SF等は
全て正立式フォークを採用しています。
つまり、バイクの設計には僅かな性能を上げるよりも
整備性の良さ、オイルシールが劣化した時のリスク
それに加えて事故の際の修理費用等
様々な総合的な観点を考慮して設計されています。
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まとめ
正立フォークの特徴
● 軽い
● 乗り心地穏やか
● 低重心で取り回しが軽い
● オイルシールが劣化してもオイル漏れしにくい
● オイルシールの交換は容易
● 事故の際フレームのダメージを受けにくい
倒立式フォークの特徴
● 高剛性
● バネ下重量が軽い
● タイヤの追随性が高い
● オイルシールが劣化するとすぐオイル漏れする
● オイルシールの交換は大変
● 事故の際フレームまで変形する可能性がある
正立式フォークと倒立式フォークを比べてみましたが
実際にはそれほど大きな違いは有りません。
また強度や減衰力の性能は
フォーク自体の径を大きくする事で
性能を簡単に上げられるので
実はそれほど正立と倒立での絶対的性能の
大きな違いは有りません。
また通勤や仕事等で使用するバイクに関しては
正立式の方が適していると言えます。
それは絶対的な性能は倒立式に対して劣っていても
総合的な観点で考えると
正立式の方がメリットが多いからです。
正立式フォークの方が軽くて低重心の為に
取り回しも良く、乗り心地が穏やかです。
また一番懸念されるのは
倒立式はオイルシールが劣化した時に、フォークオイルがダラダラと漏れる可能性が有るので、使用頻度の高い仕事用では不向きです。
という訳でバイクのフロントフォークの
正立式と倒立式を掘り下げてみました。
正立式と倒立式はどちらが良いと言うものでは無く
どちらも一長一短が有ります。
安全の為に、たまには
フロントフォークのダストシール部分をチェックして
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ダストシールとオイルシールの異常が無いか確認しましょう。
▼リヤサスペンションについての記事はこちら