今回はスパークプラグの "経済寿命"
という観念について考えてみたいと思います。
前回スパークプラグの製品寿命について記事を書きました。
▼前回の記事はこちら
前回の記事はスパークプラグの製品寿命は
実際はかなり長いという趣旨の記事を書きました。
スパークプラグの製品寿命は
プラグの電極間のギャップが広がる事により
スパークプラグの要求電圧が高くなり
それがイグニッションコイルが、発生できる供給電圧を超えてしまうと
プラグの火花が飛ばせなくなり失火します。
つまりスパークプラグが機能しなくなる時点が
製品寿命という訳です。
そして"経済寿命"とはプラグ製造元の
NGKが推奨している交換時期です。
"経済寿命"は部品自体はまだ使える状態でも
スパークプラグが消耗してくると
スパークプラグの中心電極と外側電極のギャップが広がります。
▼新品
▼ 消耗後
本来なら両電極間の火花で点火します。
▼本来の点火位置
ギャップが広がると火花がリークするようになって
両電極間から離れた場所で点火するようになります。
▼点火位置が変わる
点火位置がずれる事で燃焼タイミングが遅れて
馬力の低下や燃費の悪化を招いてしまいます。
(これを"奥飛火"現象といいます)
ちなみにイリジウムプラグの方が
通常のプラグに比べて奥飛火現象は起きにくいです。
▼ 通常プラグ
▼イリジウムプラグ
それはイリジウムプラグは中心電極が尖っているので
外側電極が消耗してギャップが広がっても
電極間の最短距離の変化が殆ど無い事に加えて
外側電極が消耗しても、中心電極のイリジウム自体は殆ど消耗しない事が
奥飛火現象が起きにくい理由です。
スパークプラグの劣化の説明をしたので
次に"経済寿命"の話に戻ります。
奥飛火現象が起きて燃費が悪化する事で
燃料費が増えたり、エンジンが始動しない事による
経済的損失を受けたりする事よりも
1本千円前後のスパークプラグを予備的に交換してしまった方が
経済的に有益だという考え方が経済寿命です。
これは非常に理にかなった考え方だと思います。
という訳で既に経済寿命を迎えている
我がKSR110のスパークプラグを交換してみます。
現在KSR110に使用しているスパークプラグは
新車時に装着されていた標準のスパークプラグを
1700キロで現在の片側イリジウムプラグに交換して
現在の走行距離は13300キロになります。
つまりイリジウムプラグを装着してから
11600キロ使用したという事です。
NGKが推奨している交換時期が
3000キロ~5000キロですから
その2~3倍は走っているので
もうとっくに経済寿命に到達しているでしょう。
今回スパークプラグを交換したのは
別に点火の不具合等が有った訳では無く
スパークプラグの寿命の半分程度の
1万キロ位でプラグを交換した場合に
果たして体感できる程の効果が有るのかを
実験する為に交換してみました。
▼ これが11600キロ使用したプラグ。
点火部をアップします。
う~ん……正直余り劣化しているようには見えません。
やはりNGKのイリジウムプラグの品質はかなり優秀と言えます。
まあまだ1万キロ位は使えるのでこんな物でしょう。
▼ これが新品です。
点火部を拡大します。
▼ KSR110のイリジウムプラグ(CR6HIX)
ちなみにKSR110に指定されている
イリジウムプラグは片側イリジウムプラグです。
寿命は一般的なプラグと同じ2万キロ程度となります。
※現在二輪車では10万キロ無交換の
両側イリジウムや白金プラグは有りません。
それでは新旧プラグを比較します。
やはり外側電極部分の角が丸くなっているのが分ると思います。
またプラグギャップ(中心電極と外側電極の距離)が
広がっているのも確認できます。
この角度から見ると外側電極の輪郭が
全体に小さくなってるのが確認できます。
という事で新しいプラグを装着します。
締め付けて……。
走ってみます。
さて効果のほどは……。
エンジンをかけてみると始動性は良くなり
一回のキックで元気良くエンジンが回り始めました。
そして実際乗ってみると想像していた以上に
エンジンのフケ上りが良くなりました。
特にアイドリング~6000回転位までの
回転域が明らかに早くなりました。
ちなみにトップスピードに変化は有りませんでした。
感覚的にはエンジンが元気になった様な感じです。
こうしてみると
スパークプラグの寿命の半分程度で交換しても
体感できる程の効果が有るという事が分りました。
今回の事を考えてみると
スパークプラグは寿命限界まで使うというよりは
ある程度プラグの火花の飛びが悪くなってきたら
交換して本来のエンジン性能を維持する方が
賢明だという事が言えると思います。
スパークプラグ自体イリジウムでも
1本千円~2千円位と安価なので
製品寿命と言う観念では無く、経済寿命まで使ったら予備整備として
プラグを新品に交換して、エンジンの持っている本来の性能を維持して
不具合を防ぐ事の方が結果的に得だと思いました。
また特にバイクの様な、吹け上りを重視されたエンジン特性では
プラグの重要度はとても高いので、早目に交換するメリットが大きいです。
前回の記事ではスパークプラグの寿命は、指定交換時期よりも遥かに高寿命という内容だったのですが
今回はプラグを寿命まで使う事の経済的メリットよりも、早めにプラグを予備交換する方が結果的に有益であるという
前回の記事から大きく揺り戻した形となりました。
またどの程度が経済寿命かというのは
NGKやデンソーが推奨している
(3000~5000キロ)に関しては
個人的にはやはり過度に短い設定だと思います。
バイクの車種にもよりますが、スパークプラグの経済寿命の大まかな参考表を作りました。
経済寿命表
50cc | ||
5000キロ | ||
125cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
8000キロ | 5000キロ | |
250cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
12000キロ | 5000キロ | |
400cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
15000キロ | 7000キロ | |
大型 | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
20000キロ | 10000キロ |
次にスパークプラグの製品寿命表です。
製品寿命表
50cc | ||
12000キロ | ||
125cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
20000キロ | 10000キロ | |
250cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
25000キロ | 10000キロ | |
400cc | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
30000キロ | 12000キロ | |
大型 | 1万回転以下 | 1万回転以上 |
40000キロ | 15000キロ |
こうしてみると
スパークプラグは製品寿命の半分程度を迎えたあたりで
火花の飛びが悪くなって
エンジン性能を低下させるという事が言えると思います。
またツインカムでショートストロークエンジンの場合は、極めて高い吹け上り性能が有る分
スパークプラグのコンディションに対する依存性が高いので、製品寿命まで到達していない状態でも
スパークプラグを交換する事で、エンジンフィーリングが軽くなり快適なツーリングができるので
そういった意味でも早目のプラグ交換も有りかと思います。
またプラグは簡単に交換できるので、早めにプラグを交換してみて
効果が体感できなければ、また旧プラグに戻すのも有りだと思います。
またこの他に
キャブ車とインジェクション車でも、スパークプラグに対する要求度が違います。
インジェクション車は最適な混合比と、細かく霧状にされたガソリンを燃焼室内に噴射するので
僅かな火花でも効率的に燃焼させることが出来ます。
それに比べてキャブレター車は
密封された状態でピストンが動く際に発生する負圧を利用して、空気の流れを使ってガソリンを燃焼室に送り込みます。
キャブレターの構造上、燃料噴射の細かい調整が出来ないので
外気温や湿度の変化、低回転~高回転等の、空燃比の設定等がどうしてもムラがでてしまい
結果的にスパークプラグのコンディションが悪いと、ネガが出る範囲の回転域や温湿度で、失火しやすいという事が言えます。
なので上記の表に加えて
キャブ車の場合は若干早めに交換する必要が有りますし
インジェクション車はもう少し持つ可能性が有ります。
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