現在バイクのエンジンの冷却方式は
"空冷エンジン"と"水冷エンジン"が有ります。
▼ 空冷エンジン
▼ 水冷エンジン
一部に油冷エンジンというのもあります。
ちなみに現在四輪車では
空冷式エンジンを採用している自動車は有りません。
昔は四輪車でも空冷エンジンの設定は有ったのですが
様々な理由で空冷エンジンの四輪車は消滅しました。
では何故空冷エンジンを採用する四輪車が無くなったのかと言うと
まず空冷エンジンはどうしても
オーバーヒートに弱い点が有ります。
またそれ以外にも空冷式は燃焼室付近の細かい温度管理が出来ない為に
ピストン周りの熱膨張を考慮して
部品間のクリアランス設定幅を大きくとらなければならず
高性能化は難しいという点が有ります。
その為燃焼室の温度域がワイドになるので
冷感時、高温時、低負荷時、高負荷時と言った様々な状況で
狙った温度域で燃焼させる事が出来ないので
燃焼温度や空燃比で大きく左右される
排出ガスの管理がしにくい点が有ります。
また空冷エンジンはガソリンを燃焼室に多めに吹き付けて
蒸発熱で燃焼室周りを冷却する(燃料噴射冷却)
を活用するのが効果的なもう1つの冷却策な訳ですが
それをすると今度は理論空燃比から遠くなってしまいます。
(理論空燃比とは最も理想的な混合比での燃焼)
具体的にはガソリンの理論空燃比である(14.7)
※(ガソリン1g)に対して(空気14.7g)
ガソリンエンジンは理論空燃比(ストイキメトリー)で燃焼させる事が
最も燃焼効率が良く、パワーも出て燃費も良くなります。
この値に狙って燃焼させないと燃焼効率が落ちて
燃費が悪くなってしまいます。
特にリッチでは(燃料が濃い状態)
CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)が増えてしまいます。
しかし上記の様に空冷エンジンはリッチで燃焼させないと
燃焼室周りの蓄熱が過大になります。
つまりは燃焼に関しては
冷却 と 低排出ガス が相関関係にある訳です。
そういった事からも空冷エンジンは
現在の厳しい排ガス規制に対応するのが困難です。
また空冷エンジンはエンジンが大きくなると
その分冷却フィンも大きくしなければならず
本来省スペースの空冷エンジンのメリットを打ち消してしまう事もあり
現在は四輪車には採用されなくなりました。
現在は空冷エンジンとは
バイクだけの冷却方式となりました。
▼こちらは空冷エンジン搭載の小型バイク
最も高温になる燃焼室が有るピストン部分が有るシリンダーを
前面に配置して走行風を当ててエンジンを冷やします。
空冷エンジンの外側には冷却の為の(フィン)溝が彫られていて
この溝が空気に触れる面積を増やして排熱効率を上げています。
このバイクの様に原始的な空冷エンジンは
エンジンを冷却する為の付帯設備を一切持たず
自然放熱のみでエンジンを冷却しています。
空冷エンジンは特性上
小さいエンジンや低出力のエンジンと相性が良いです。
そんな空冷エンジンの最大のメリットは何といっても
軽量でコンパクトにエンジンを設計できる点です。
水冷式に比べて部品点数を大幅に削減できるので
結果的に低価格でトラブルが少ないバイクにする事が出来ます。
その他にハーレーダビッドソンなんかは
空冷エンジンにこだわっていて
性能よりもデザインを追求している様なメーカーも有ります。
ただ空冷の大排気量車はどうしても冷却能力に余裕が無いので
夏場で渋滞などにはまってしまうと
燃焼室の熱膨張が限界値付近まで来てしまうので
エンジンがストールしてしまう事も有ります。
また夏場はエンジンオイルの劣化が早いという点もあります。
ハーレーダビッドソンも現在は
ストリート750等の水冷エンジンのバイクを発売していて
若干現代の潮流に舵を切った感じです。
また旧車好きな人も
空冷エンジンになじみが強いので
空冷エンジンを支持する層も根強いです。
代表的なのがCB1100です。
現在ではこのクラスのロードスポーツでは
唯一の空冷四気筒エンジンです。
今では極めて希少なバイクです。
旧車好きの方々には高い支持を得ています。
メーカーもその辺を良くわかっていて
絶対的な性能を追求するよりも
"空冷四気筒"という点にこだわって作っています。
ただCB1100は空冷と言っても原始的な空冷式とは違い
オイルクーラーが装備されています。
▼これが昔の空冷四気筒エンジンです。
オイルクーラーの類は無く
シリンダーフィンが露出しています。
またそれだけでなく
CB1100はシリンダーに冷却の為のオイルジャケットを設けたり
エンジンオイル潤滑用のオイルポンプとは別の
油冷用の独立したオイルポンプを内蔵したりと
CB1100は進化した空冷エンジンです。
メーカーとしてはあえて
高出力化する上で難しい設計の"空冷"を
苦労しても現代の技術で高い次元で完成させる事で
空冷好きに受ける事を良く理解しているという訳です。
実際CB1100は性能的に見ても
水冷式エンジンと大差無いほどの高いスペックを実現しています。
個人的には空冷エンジンの良さは
何といってもラジエータやオイルクーラーの類が無く
エンジンが全体的に露出している所が空冷の良さだと思うので
エンジン前面にオイルクーラーを付ける位なら
もう水冷式で良いんじゃないかと思ってしまうのですが
そこはホンダの‶ 空冷のこだわり ‶といったところでしょうか。
ちなみに国内史上空冷四気筒で最大排気量を誇ったのは
ヤマハのXJR1300というバイクです。
通称はペケジェー。
エンジン前面にやはりオイルクーラーを装着しています。
2017年まで発売されていました。
XJR1300は空冷でありながら
何と(100馬力)輸出仕様は(106馬力)と
当時の国内規制上限までパワーを出していました。
そんな空冷四気筒バイクも今では採用車がほぼ無くなり
絶滅危惧種となっています。
これには排ガス規制以外にも
2007年に撤廃された国内馬力規制の影響も一因だと考えられます。
それまでは空冷でも水冷でも大型車は
(100馬力)という国内規制が有ったので
パワーに関して差は有りませんでした。
それが国内馬力規制が無くなると
馬力は(100馬力)を大きく超えて
150馬力、200馬力と
本来の大排気量のパワーを開放して
大型バイクのポテンシャルを味わえる事がユーザーに受けて
時代は水冷式で高出力のバイクがメインとなっています。
そして今では高出力バイクの主流の水冷エンジンです。
エンジン前面に大きなラジエーターが有るのが特徴です。
高い出力のエンジンは殆ど全部水冷エンジンです。
水冷エンジンのメリットはなんといっても
オーバーヒートに対する高い安定性です。
エンジンの出力を上げるとどうしても
熱量も上がってしまうのでそれに対応する
現在最も適した冷却システムが水冷式です。
そういった事からも現在100馬力以上のエンジンで
空冷式を採用しているバイクは有りません。
ただ水冷式エンジンは空冷エンジンに比べて
部品点数が増える為に若干重くなります。
ラジエーター
ラジエーターファン
ゴムホース
冷却液
ウォーターポンプ、サーモスタットバルブ
等の空冷式には無い部品が増えるので
トラブルの要因が増える事になります。
ただ現在の水冷エンジンは熟成が進み
軽量化して耐久性も高くなって
実際には水冷システムの故障は殆ど無くなってきました。
また水冷式は狙った空燃比と温度域で燃焼させられるので
排ガスはクリーンになり
燃料噴射冷却に頼らずとも
全域で理論空燃比付近で燃焼出来るので
パワーが出て燃費も良い事から
水冷エンジンは現在のハイパワーバイクの主流となりました。
最後に
油冷エンジンについて述べたいと思います。
油冷エンジンとは
エンジンオイルを積極的に冷却に使用するエンジンです。
具体的にはエンジン前面にオイルクーラー付けて冷却性能を高め
エンジンオイル量を増やして独立したオイルポンプを持ち
最も高温になる燃焼室上部をオイルを噴射して冷却させたりする
空冷エンジンよりも構造的に複雑で
オイルによる冷却機構を備えたエンジンです。
有名なのがスズキの"SACS"で
(suzuki advaced cooling system)
バンディット1200やGSX1400等に搭載されていました。
現在はスズキも油冷を廃止して水冷化にしています。
また"油冷エンジン"には明確な定義は無く
オイルクーラー
冷却用独立オイルポンプ
シリンダー付近へのオイル噴射
エンジンオイルの増量化とオイル溜まり機構
これらのオイル冷却対策の中で
オイルクーラーだけを付けただけでも
"空油冷"として謳っているメーカーも有れば
CB1100の様に
オイル冷却の為の複数の機構を持ち合わせていながら
あくまでも"空冷"と謳っている事も有り
この辺りはメーカーが
アピールしたいセールスポイントによって
空冷、空油冷、油冷、と定義している側面も有るかと思います。
例えば小排気量の空冷エンジンに
オイルクーラーを付けて空油冷としてアピールすれば
空冷よりも高い冷却技術を用いているという事で
ユーザーには良い印象でとらえられます。
またCB1100の様に
旧車ファンに訴求するのであれば
空油冷や油冷と謳うよりも
"空冷"としてアピールする方が旧車のイメージがまとまります。
ちなみにヤマハのSRは
未だに昔ながらの空冷です。
オイルクーラーや特別な冷却機構を持たず
シンプルな走行風と自然放熱だけで冷却をまかなっています。
純空冷と言えます。
空冷エンジンの特徴
① 軽量、小型化、低コスト
その為に小型バイク等の小排気量車に相性が良い
② エンジン前面が露出されていたり冷却フィン等のデザインが
一部の空冷ファンに未だに支持されている
③ エンジン温度が不安定で
高出力化すると冷却性能に問題が出る
水冷エンジンの特徴
① 水冷ユニットを装着するので
重量増、部品の増加、高コスト
② エンジン温度を一定に保てるので
真夏で渋滞時等の長時間のアイドリングでも
ラジエーターファンが回ってオーバーヒートの心配が無い。
③ また細かい制御で燃焼を行えるので排気ガスがクリーン
高出力、高燃費
また空冷も水冷も基本的には
どちらが良いというのではなく
使用状況によって良し悪しが分れます。
例えばオフロードバイクで険しい道を走るとなると
転倒してラジエーターやホース等にダメージが及ぶ事を考えると
なるべく付帯設備は少ない空冷の方が良いです。
逆に言えば街乗りしかしないのであれば
どちらも大差有りません。
という訳で今回は空冷エンジンと水冷エンジンを
なるべく細かく掘り下げて比較してました。
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