キャブレターとインジェクションの違い

キャブレターインジェクションの違いを
極力解り易く解説しています。

 

● 目次

① キャブレター&インジェクションの歴史

②   キャブレターの構造

③ インジェクションの構造

④   キャブレターの特徴

⑤ インジェクションの特徴

 

 

自動車のパワーソースとして、一般的に普及している

内燃機関レシプロエンジンには

燃料噴射システムに長い間

"キャブレター"が採用されていました。

 

キャブレターの歴史を遡ると非常に古く1880年代に

現在のレシプロエンジンの原型となるものが開発されました。

 

つまり100年以上前から、キャブレターは使用されてきたと言う事が解ります。

 

 

しかし戦闘機等でのシビアな状況では、強いGがかかった時に燃料の供給が途切れがちになり、それを改善する為に

燃料噴射装置である

"インジェクション"が開発されました。

当時ドイツの航空機で積極的に開発されました。

 

ちなみに自動車にインジェクションが初めて採用されたのは

1954年です。

 

やはりドイツのメルセデス社

ベンツ300SLのエンジンが、世界初のインジェクションを採用した直噴エンジンとして登場しました。

 

 

日本では1990年代になると、四輪自動車ではインジェクション化が急速に進み

2000年代にはキャブレター車は殆ど無くなりました。

 

バイクに関してのインジェクション化

1980年にカワサキがZ1000Hに世界で初めて

市販車で採用しました。(輸入向け)

 

日本国内では1982年にやはりカワサキが

Z750GPに初採用しました。

 

しかしバイクの様に極めてリニアな、スロットルレスポンスを求められるエンジンには

当時の技術では追い付かず、その後カワサキは燃料供給装置をインジェクションから、キャブレターに戻しました。

 

そして各センサーの制度や技術の向上により、

1999年に再びインジェクションモデルを復活させました。

 

 

しかしバイクのインジェクション化は、四輪車に比べると

10年ほど遅れて

2000年代になっても、まだキャブレター車がラインナップされていました。

 

そして2010年代に入って殆どのバイクが

インジェクションに切り替わってきました。

 

現在では自動車に関してはキャブレター車は有りません。

 

 

バイクに関しても、競技用車両を除いては現在キャブレター車は有りません。

 

 

さてキャブレターインジェクションとは、どう違うのかを

解り易く解説します。

 

 

キャブレターの構造は密閉された空間で、ピストンが上下する動きで発生する"負圧"をパワーソースに利用して

燃焼室の手前に在るキャブレターから、燃料を吸い上げる構造です。

 

ピストンが下がった時の負圧で発生した

エアーの吸い込みを利用してキャブレター内のガソリンを

燃焼室に取り込みます。

 

 

簡単に説明するとストローで吸うと、水が上がって来るのと全く同じ原理です。

ストローで吸う力というのが、密閉された空間でピストンが下がった時に空気を引っ張る(負圧)となっている訳です。

 

キャブレター自動燃料供給装置であり、それ自体に動力を必要としないので、効率的です。

 

しかし反面キャブレターの内部機構はとても複雑です。

それはガソリンをプールする為のフロート室を用いて、アイドリングからスロットル全開までの、空燃比を調節する為の機構を必要とするからです。

 

 

インジェクションの構造は

燃料を電動ポンプで圧力をかけて噴射するという、構造です。

 

 

キャブレターの様に、複雑な内部機構を持たないのでシンプルです。

 

ですがインジェクションを動かす為の、電気を新たに必要とします。

 

 

ではキャブレターインジェクション

どちらが良いのでしょうか?

 

現在内燃機関の燃料供給方式は、インジェクションに切り替わっているので

もちろんインジェクションの方が、良いように思えますが

その辺りの事を詳しく見ていきましょう。

 

 

まずキャブレターの特徴です。

キャブレターはアクセルを開けると、自然に回転が上昇していくという特徴があります。

 

これはスロットル開度にコンピューターを介せず、ピストン運動に連動して燃料が供給されるからです。

 

つまりキャブレターのエンジンは、有機的な味付けになります。

 

またキャブレターはアイドリング空燃比を任意に調整する事が出来ます。

 

そしてキャブレター内部の、メインジェットを交換したり

キャブレターそのものを交換する事で

簡単にカスタムする事が出来ます。

 

そういったカスタムの余地が有るので、カスタム好きな人にとってはキャブレターの方が好きな人が居る訳です。

 

しかしキャブレターの最も大きな問題点は

空燃比の固定化"です。

 

 

ガソリンの理論空燃比は(14.7対1)です。

 

つまりガソリン()に対して(14.7倍)の空気で燃焼させるのが、最も効率が高いです。

 

しかしこの空燃比というのは外気温、湿度、気圧の変化によって、理論空燃比で燃焼させる事が難しくなってきます。

 

特に日本の様に冬では0度になるかと思えば

夏では35度という温度域がワイドレンジな環境では、キャブレターで最適な燃焼をさせるのは困難です。

※通常使用の範囲では問題ありません。

 

例えば気温0度の時に理論空燃比である

14.7の空燃比でセッティングした場合

 

外気温が30度になると空気密度が減少して

酸素の含有量10%程度下がります。

 

そうすると、キャブレターで供給される燃料は

リッチ(濃い)状態で燃焼する事になります。

 

ちなみにリッチの状態ではパワー低下は限定的ですが

燃費悪化、不完全燃焼による排ガスの増加吹け上がりの鈍化などが起こります。

 

反対に気温30度でセッティングした場合は

外気温0度になると、リーン(薄い)状態になり

 

その場合はパワー低下アイドリング不安定エンジンのストール、燃料噴射冷却の低下による、エンジン熱の増加などが起こります。

 

もちろんメーカーもその辺りは良く解っていて

気温(0度~40度)迄対応できる様に設定しているのですが、それは逆に言うと気温0度気温38度等の

極端な温度域では空燃比がずれるという意味でもあります。

 

なので一般的にキャブ車は厳寒時酷暑時は能力が落ちてしまいます。

当然、理論空燃比から離れた値で燃焼するので、燃費も悪化します。

 

ただ小型バイクでもない限り、実際に運転に支障が出る程の影響は有りません。

 

ミニバイクは排気量が小さいので、僅かなパワーロスが走行に大きく影響してきます。

 

 

この様にキャブレターはどうしても環境にシビア

特に冬季高地では理論空燃比から大きくずれてしまい

始動性、アイドリング不安定、出力の低下がおこります。

 

それ以外にもキャブレターは、非常にデリケートな機構

しばらく乗らないとキャブレター内の燃料が劣化して、燃料経路が詰まり

エンジン不調を発生します。

 

▼ 14年使用したスロージェット

(※スロージェットとはキャブレター内部で、アイドリング付近の低回転域で、空燃比を調節する部品です)

 

 

3年位乗っていないキャブ車で、エンジンを掛けようとして、ブースターケーブルを繋げて、セルを回しても

全くエンジンがかからない原因は殆ど、キャブレター内部にガソリンが古くなって発生した不純物が詰まって起こります。

 

 

それに比べてインジェクションメンテナンスフリー

高い圧力で燃料を圧送するので、古い燃料も燃焼させる事が出来ます。

(※インジェクターノズルが汚れてくる事は有ります)

 

こういった様々な理由で、今のバイクは全てキャブレターを廃止して、インジェクションに切り替わりました。

 

しかしキャブレターは燃料供給自体に電気を必要としないので
バッテリーが上がっても

押し掛け"でエンジン始動が出来ます

 

またECU(コンピュータ)を持たないので、故障の心配が無く、キャブレターオーバーホールさえすれば
他の基幹部品が壊れる迄乗れるというのも、長く乗る人にとっては安心でもあります。

 

 

それに対してインジェクションの特徴

外気温、湿度、気圧の変化に対応して

"空燃比"最適な理論空燃比に近づけて燃焼させる事が出来ます。

なので環境変化に強く常に最適な燃焼を実現出来ます。

 

真夏でも真冬でも、高地でも、が降っても

環境の影響を受けません。

 

またインジェクション車冷感時でも、容易にエンジンが始動出来ます。

アイドルアップ機構

(エンジン温度が低い時はアイドリング回転数を上げる)

も有るので、エンジンが早く温まり、不意のエンストも有りません。

 

 

またアイドリング時リーンバーン希薄燃焼

させる事が出来るので、回転数を維持しながら燃料を節約する事も出来ます。

 

またインジェクションキャブレターと違い

空気と燃料を細かく均一にした状態で混合気を作れるので、燃焼ムラが無く高効率な燃焼が出来ます。

 

また混合気を燃焼室に近い地点、又は直接燃焼室に噴射出来るので

燃焼効率燃焼安定性も高いです。

 

つまりインジェクションキャブレターの欠点

全てカバーしているという事が出来ます。

 

 

そう聞くとインジェクションは、全てが良い事ずくめに思えますが、唯一ユーザーから指摘されるのは

インジェクションカスタムの余地が無いという事です。

 

キャブレターの様に吸気装置を交換して、吸気効率を上げる事が出来ません。

 

またマフラーを交換して排気棄効率を上げても

キャブレターの様に性能がリニアには上がらず、それどころか予め設定された排気抵抗値が変わってしまい

燃焼がギクシャクして結果的にパワー低下する事も有ります。

 

なのでインジェクション車のマフラー交換は、音質や見た目の変化に留まります。

 

インジェクションでもハーレーの様に

吸排気系交換に伴って、ECUの書き換えをすれば性能は変わります。

 

ただ殆どのインジェクション車は、ECU書き換えのハードルは高く、大した性能変化も望めないので

カスタムという観点で見た場合に、キャブレターはアップデートの余地が有り

インジェクション車は初めから完成されているので、エンジンのカスタムの余地は殆ど有りません。

 

こういった背景が有るので、これまでのライダーのイメージには

キャブレター車は、バイクをいじれるハードユーザーが好み

インジェクション車は、ビギナーライダーからカスタムをしないライダーに好まれる、といった流れが有りました。

 

 

しかし現在は状況が変わってきました。

 

大型自動二輪の免許も、教習所で取得できるようになったので

以前の様に中型バイクしか選べないという制約も

殆ど無くなってきており

 

パワーが有るバイクが欲しければ、以前の様に小型や中型のバイクを無理にカスタムしなくても

1000cc1800ccの大型バイクを、容易に選べる様になりました。

 

そうなってくるとエンジンに関しては、カスタムの必要性も無くなってきています。

 

100馬力を超えるエンジンを、費用をかけてカスタムする必要が有るでしょうか。

 

4ミニのラインナップに関しても

現在はモンキーも既に125cc化しているので、十分なパワーが有ります。

 

そういった背景もあり現在は

インジェクション車が全ての面で、キャブレター車の性能を凌駕しているので

国内のバイクは原付から大型まで、全てがインジェクション化したと言えます。

 

 

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